趣味の文房具箱

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筆記具

金属に色彩を宿す。モメンタムファクトリー・Oriiが切り拓く、新たなものづくりの世界

2026.10.15

魅力あふれる文具には、それを生み出すデザイナーや職人たちの思いや情熱が宿っている。雑誌「趣味の文具箱」で連載中の「The Breath of Craftsmanship ―ものづくりの息吹―」ではものづくりに脈々と流れる息遣いを紹介。今回は、多様なブランドの製品にその着色技術が採用され、カヴェコ×Orii×趣味の文具箱のトリプルコラボでも注目を浴びている「モメンタムファクトリー・Orii」のものづくりに迫る。

高岡銅器の着色技術を継承し、生み出した、金属の鮮やかな色彩
「momentum factory Orii」

モメンタムファクトリー・Oriiは1950年に折井着色所として創業し、伝統工芸品の高岡銅器の仕上げとなる着色を生業としてきた。江戸時代から鋳物の一大生産地として栄えてきた富山・高岡を拠点に、皇居二重橋龍照明灯の着色を手がけるなど、戦後の銅器産業を支えてきた。しかし生活様式の変化とともに、1990年頃をピークにして産業は深刻な衰退へと向かっていく。

そんな時期、東京にいた3代目の折井宏司さんが、伝統産業の衰退を防ぐため、地元へと戻る。当時がまさにどん底の時代だったからこそ、モメンタムファクトリー・Oriiは生まれたのだと、折井さんは語る。「仕事が落ち込んでいることが、逆に良かったんです。もしも順調に仕事がもらえていたら、新しいことなんて絶対やっていなかった。仕事が無いのなら、自分で作ればいいと思いました」。

そして伝統技術を独自に解釈し、薄い銅板に薬品のみで着色を行う、独自の技術を開発。そして壁などの建築資材や照明などのインテリア、小物への着色を始めた。「斑紋ガス青銅色」「斑紋緑翠色」など今では全18色を手がけている。

世界でも唯一の技は大きな注目を集め、高級ホテルの壁や看板などに取り入れられ、これまで関わりの無かった分野へと活動の幅を広げることに成功した。2008年には社名を「モメンタムファクトリー・Orii」に改称。現在は海外展開も本格化し、2026年にはドイツのカヴェコとコラボシャープペンシルを製作。「斑紋緑翠色」を施し、侘錆を感じるような新鮮な色合いが大きな評判を集めた。時代の変化へ適応を遂げたことで、Oriiの製品は、まさに現代の工芸品として、人々の生活を支え続ける。

折井宏司
1970年、富山県生まれ。3代目代表取締役。東京でIT関連企業に勤務後、「伝統技術を絶やすまい」と1996年、26歳で帰郷し折井着色所へ。高岡銅器の伝統着色技術を応用した、独自の着色技術を開発。2008年に「モメンタムファクトリー・Orii」に改称。2009年には伝統工芸士に認定された。アウトドアを好み、スキーやキャンプ、カヌー、バスフィッシングなどを好む。

多くの若手が門戸を叩く、創業76年の着色所

折井さんが折井着色所に戻った時、従業員はわずか5人、そして生活様式の変化とともに、銅器産業は衰退を余儀なくされていた。しかしその機会に独自の着色技術を生み出したことで、着色所は新たな可能性を生み出した。一時は六本木ヒルズの展望フロア壁面を着色したりするなど、建築やインテリア、クラフトなどの業界へと活動の幅を広げる。その噂を聞きつけ、多くのメディアが取り上げたことで、美大や工学系の大学を出た若者が多く入社してきた。現在では社員も19人に増え、伝統産業業界では珍しく、若手主体の工場が誕生した。

江戸時代から伝わる伝統工芸の技

高岡では天保・弘化の時代(1830~48年)に銅器の生産が始まったとされる。それ以来、米糠や大根おろしなどを使ったさまざまな着色方法が生まれてきた。

ここでは「糠焼青銅色」の発色の様子を紹介。「糠焼(ぬかやき)」とは、米糠を銅や真鍮の表面に塗ることで、バーナーで炙った時に、表面の酸化具合を変化させ、斑模様を作る技法の名称。伝統工芸の技を見ていこう。

まずは表面に米糠を塗る。漬物に使用する糠に、塩や硫黄を配合した特別な米糠を使用。塩や硫黄が銅と反応することで、焼き上げた後、複雑に入り組んだ模様が現れる。

約700~800度の高温なバーナーで、金属が真っ赤になるほど、一気に焼き上げる。模様の出方や耐久性はバーナーの時間や、この後の冷却のタイミングによっても変わってくる。

冷めた表面を磨くと、茶色の美しい斑模様が浮かび上がる。この後で煮色(にいろ:硫酸銅と緑青の溶液で煮込むこと)などの別の技を施すと、「糠焼朱銅色」という茶褐色にすることもできる。

「糠焼青銅色」を発色させるためには、バーナーで炙り磨いた後に、硫酸銅や塩化アンモニウムなどを混ぜた溶液を表面に塗布する。温度や場所を変えながら、何度も塗布と拭き上げを繰り返す。

完成した「糠焼青銅色」。酸化によって自然に発生する緑青に近い、酸化被膜を発生させることで、ナチュラルな雰囲気ながら、味わい深い色合いが生まれている。自然の緑青と違い、被膜の密度がより緻密なため、耐久性が高いのも特徴だ。

あらゆる色彩が溢れる、Oriiの製品たち

「スペシャル ペンシル ブラス 斑紋緑翠色」の製作までにも、Oriiではさまざまな文具が作られてきた。現在も販売されている製品の中から、日々の装いをより華やかにしてくれるようなモデルをピックアップした。

momentum factory Orii×DOT DESIGN「2way pen」
共通スペック:収納時約138mm・胴軸径約10mm・重量約36g・税込25,300円|万年筆:筆記時約157mm・スチールペン先EF・両用式/ボールペン:筆記時約156mm・キャップ式

台湾のデザイナーズブランド「ドットデザイン」とコラボレーションした筆記具。ペン本体に加えて万年筆とボールペンの首軸がセットになっていて、首軸を付け替えすることで、万年筆とボールペン両方で使うことができる。「斑紋純銀色」(右)と「斑紋ガス青銅色」(左)、「斑紋孔雀色」の3色で展開する。

たからばこ
約100W×42H×65Dmm・重量約380g・税込41,800円

銅または真鍮を材質として、外側は無垢な金属、しかし開けてみると見事な色彩が現れる「たからばこ」。重量約380gと重厚感があり、大切なものを保存するのにふさわしい仕様だ。色は写真の「斑紋ガス青銅色」に加え、「斑紋緑翠色」も展開。受注生産でのみ対応している。

tray square
S:約180W×115H×10Dmm・重量約120g・税込5,500円/M:約230W×180H×10Dmm・重量約225g・税込9,900円/L:約360W×230H×10Dmm・重量約450g・税込14,300円

カトラリー類を置くための銅板トレーは、ステーショナリートレーとして使用するのもおすすめ。サイズは3種あり、ペンを置くならMサイズがちょうど良い。カラーは「斑紋黒染色」「斑紋孔雀色」「斑紋荒し色」「斑紋ガス青銅色」「斑紋緑翠色」「斑紋白銀色」の6色をラインアップ。

ショールーム兼ショップも営業中

工場の敷地内には、オリジナルグッズがすべて揃うショールーム兼ショップを設けている。上に見えるランプシェードもOriiの着色を施していて、販売もされている。これまでに製作された筆記具の一部が展示されていたりもするので、Orii製品の魅力を間近で見るには絶好の場所である。

また工房では着色体験ができるワークショップも随時行っている(要予約)。高岡には江戸時代の街並みが残る金屋町の「千本格子の家並み」などがあり、UターンやIターンした人たちによる現代的な店舗も増え続けている。高岡の伝統と今を感じる旅に出てみるのもおもしろい。


PHOTO/鬼澤礼門/北郷 仁/荒木優一郎
モメンタムファクトリー・Orii 問い合わせ:TEL 0766-23-9685
※カヴェコ×モメンタムファクトリー・Orii×趣味の文具箱の「スペシャル ペンシル ブラス 斑紋緑翠色」の問い合わせは、趣味文クラブ(https://club-shumibun.com)へ。

記事を書いた人

趣味の文具箱 副編集長

小泉翔一

1994年千葉県生まれ。2022年に編集部に加入、2024年から現職。10代の頃に母から最初の万年筆を贈られて以来、万年筆を愛用してきた。ラテンアメリカ文学に関心があり、南米諸国への滞在経験も。文具を使い、書くことの喜びや大切さを伝えるのが目標。