筆圧が低くなっているのは世界的な傾向の模様
小学生もオトナも、軟調ペン先がいいよね
今から半世紀ほど前のこと。学校で使う鉛筆はHBだった。小学校に入るときに、買いそろえてもらった鉛筆はすべてHBと記憶している。鉛筆、ノート、下敷、筆入れ……、目の前に並ぶまっさらな文房具たちは、新世界にこれから向かおうとする幼い志をかなり盛り上げてくれた。あの心持ちは約50年たった今も体の芯に刻まれています。
今、小学生の鉛筆は2Bが標準だそう。いつ頃から軟調になったのだろうか。「現代の子供たちは筆圧が弱くなっている」。こんな話題がよく記事になっている。多くの論調は、筆圧が弱い=良くないこと、だけど、我々が住む趣味の文具箱の世界では筆圧が弱くてもしっかり書けるペンの価値は、崇敬されるべきもの。スポーツだって、武道だって脱力が基本。手や指に余計に力がかかっていては実力は発揮できないし。
子供に限らず、書くときの筆圧が弱い傾向は日本だけではない模様。昨年イタリア・フィレンツェのピナイダー本社に取材に行ったときのこと。30以上の万年筆の特許を持つ企画・開発担当のダンテ・デル・ベッキオさんはこう話してくれた。
「最近のヨーロッパの人たちは筆圧がどんどん弱くなっている。これは世界的な傾向じゃないかな」。切り欠きを加えた新開発のクイルニブは、独特の弾力がある軟調ペン先。「設計は21世紀になる前から手掛けていたけれど、当時はボールペンの筆圧で万年筆をそのまま使う人が多くて、商品化したらトラブルの懸念があった。万年筆が復活し、さらにボールペン以外のペンが多様化したことで、みんなの筆圧が下がった。そんないまだからこそ、実現したんだよ、このペン先は」。
※ベッキオさんのインタビューは「趣味の文具箱48号」29ページ~をご覧ください。
軟調ペン先の書き心地は、弾力が心地いい。弱い筆圧でも紙面に反応し、脱力して書くと自然な筆致の文字が生まれる。脱力するから文字には個性が表れ、そして優しい雰囲気が紙面から広がる。そして、慣れるまで時間がかかったり、思うような筆致が出るまでに試行錯誤が必要だったりと、奥深さもある。
自分が大好きな軟調のひとつが、中屋万年筆の「中軟」。軟らかすぎず、インクフローは潤沢で、軟調の入門にも最適。趣味の文具箱オリジナルで販売している中屋万年筆はすべて中軟。万年筆でとりとめのない落書きをしたくなると、愛用のポータブル黒溜 廻り止め万年筆を取り出して、中軟ペン先を紙面に滑らせながら「これ、気持ちいいっ」を連呼しまくっています。
※軟調ペン先万年筆の特集記事は「趣味の文具箱52号」42ページ~をご覧ください。
この記事は2020年01月10日に配信した「【趣味の文具箱】Mail Magazine」の内容を、一部転載・変更して構成しています。各種情報は変更している場合があります。
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清水 茂樹(しみず しげき)
1965年、福島県会津若松市生まれ。2004年より文具情報誌「趣味の文具箱」編集長。「ステーショナリーマガジン」「ノート&ダイアリースタイルブック」も手掛ける。ソリッドな黒軸、ネイビーブルー色のインク、風合いが育つ革、手のひらサイズが大好き。