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2018.07.23

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大人は、だれも、はじめは子どもだった。

大人は、だれも、はじめは子どもだった。

あの頃を憧憬を抱き、沼にダイブする日々

大人は、だれも、はじめは子どもだった。(しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。)

このフレーズはサン・テグジュペリの「星の王子さま」の書き出しです。名作は例外なく書き出しが素晴らしい。子どもの頃に抱いた憧れ、恋しい想いを忘れずにいる大人は素敵です。自分は、このフレーズを、新しい万年筆を買うか否か、迷い、そして沼にダイブするときに呪文のように唱えます。物心がつきはじめた小さな頃、家で父親が握っている万年筆はきらきら光り、なんだかとっても大人っぽく、素敵なものに見えていました(実際、とても素敵なものだったのですが)。あの頃の憧憬の心持ちを忘れずに齢を重ねていきたいもの。皆さんも、憧れの万年筆を目の前にして、店頭で悩み、迷ったら、唱えてみてください。

「星の王子さま」は子供向けの物語でもなく、単なる絵本でもありません。世界中で部数1億5千万冊を超えたベストセラーです。サン・テグジュペリは生粋のパイロット。箱根のミュージアムには直筆の原稿やメモなどが展示してありますが、並んで飾ってある本人の写真はほとんどがフライトジャケットを着ています。背後には郵便航空機やフランス軍の偵察機が写っています。

自分が子どもの頃はパイロットに憧れました。いまでもなりたいと思い続けています。だから、サン・テグジュペリに憧れます。大阪出張は、交通費が安くなるからという正当な理由を準備して神戸空港によく飛んでいっています。日本にある航空博物館はほぼ制覇しました。会社の上空をよく飛んでいるCH-47とSA365Nのローターのサウンドは2秒以内に聞き分けできるようになりました。編集部の窓際にはレシーバーが置いてあり羽田空港のアプローチ管制の周波数がセットしてあり…(もういいか)

サン・テグジュペリは、20代で初めて飛び、35歳のときにサハラ砂漠に不時着して死にかけ、43歳でフランス空軍に入隊すると直後に偵察機の着陸に失敗し、飛行禁止処分となるものの、ねばって飛び続けた。だめっ、と言われても本能や欲望に忠実に突っ走っていくところがいい。きっと、大人も、だれも、はじめは子どもだった…と唱えていたに違いありません。彼にとって飛ぶことは生きる証だったのでしょう。爆撃機に乗ることは拒み、偵察機で飛び続け、1944年にロッキードF-5Bで写真偵察の飛行中に地中海で消息を絶っています。

「星の王子さま」は、彼が不時着して砂漠を彷徨った経験を濃厚に反映しています。「ものは心で見る。肝心なことは目では見えない」。物語の核心に触れるこのフレーズを話すキツネを軸に纏った万年筆が登場しました。サン・テグジュペリが描いた原画が元になっています。ネイビーブルーの軸は深みがあって美しい。「星の王子さま」の舞台となっている宇宙をイメージした色のようですが、自分にはサン・テグジュペリが20代の頃に命がけで南米を飛んだ夜間飛行の空の青に感じます。

大人は、だれも、はじめは子どもだった。この呪文を毎日のように唱え続ける五十路のおじさんの夢を投影した万年筆を、胸ポケットに挿すことができたら、それは極上の幸せ。幻想的なネイビーブルーが俺を呼んでいる。さぁ、どうする。今週末はとりあえず銀座6丁目か。

詳しくは趣味の文具箱46号の88ページをご覧ください。

この記事は2018年6月15日に配信された「【趣味の文具箱】Mail Magazine」の内容を一部を転載して構成されています。各種情報は変更されている場合があります

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清水 茂樹(しみず しげき)

清水 茂樹(しみず しげき)

1965年、福島県会津若松市生まれ。2004年より文具情報誌「趣味の文具箱」編集長。「ステーショナリーマガジン」「ノート&ダイアリースタイルブック」も手掛ける。ソリッドな黒軸、ネイビーブルー色のインク、風合いが育つ革、手のひらサイズが大好き。

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