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2017.07.31

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小日向日記│鉛筆をナイフで削る

小日向日記│鉛筆をナイフで削る

短くなった鉛筆の芯をちょっと長くしたい時、自分好みの削り口にしたい時、何か気分転換したい時…ナイフで鉛筆を削りたくなるものです。

近くに鉛筆削り器がなくても手軽に芯先を整えられ、また近くに鉛筆削り器があっても「今はナイフで削りたい」という時があったりします。

鉛筆削り器と手削りは、「鉛筆の芯を書きやすい形にする」という同じ目的を持ちながらも、それぞれに別個の世界があるようです。

上の写真は、小学生の頃に筆箱に入れていた人もおいででは…という小型ナイフ。ボンナイフや、ミッキーナイフと呼ばれていました。写真のものは坪米製作所のミッキーナイフで、刃に三角クリップを挟んでいるのは「ナイフの背に置く親指を安定させるため」です。また、この刃の裏側にくるクリップの一辺を鉛筆に沿わせるようにすると、ちょっとした刃の動きのガイドの役割を果たしてもくれます。

こうした工夫を、子どもの頃には宿題そっちのけであれこれと模索したものですよね。

ナイフの背を制す者は鉛筆手削りを制す

……とはいえ鉛筆手削りを制さなくても人は生きていけるわけですが、ひとつ考えてみましょう。「何かをしよう」と思った時に、その「何か」に向かってひたむきに心血を注ぐことは、心の充実を促します。そしてその何かは、なかなか得難いものであるほうが良い。そこに鉛筆手削りはぴったりと当てはまります。

拙著『考える鉛筆』のあとがきにも書きましたが、小日向は小学校に入学する頃に電動鉛筆削り器をもらいそこねました。「子どもが楽をしてはいけない」という親の方針で、家に元からあるハンドル手回し式鉛筆削り器を使うようにというお達しが。

このことに大きなショックを受けた子ども小日向。しかし、遊びに行った友だちの家のおじいさんが、ナイフで鉛筆を削っていたのです。その削り口がとっても綺麗でした。

「ナイフは危ないだあ?! 一度くらいひやっとしてみな、怪我しない使いかたがわかるからよ」

…という威勢のいいおじいさんで、このおじいさんから鉛筆手削りの特訓を受けました。

◆良く切れる刃であること
◆刃を持った手は固定して動かさないこと
◆鉛筆を持つ手の親指を刃の背に置いて一定した角度を保つこと
◆刃は動かさず、鉛筆のほうを動かして削ること

といった鉄則を教わり、確かに刃のほうを動かすとあらぬ方向にすべってしまう、鉛筆のほうを動かせば良いのだ、と実感しました。そのためには親指で支える刃の背部分が大切です。

これが、小型ナイフやカッターナイフでは、背が薄いのです。

見比べてみましょう。

d20170731-01_1

左が小型ナイフ、中央がカッターナイフ、右が肥後守の背です。

小型ナイフは刃を差し込むホルダー部分が背となり、これがもしももう少し平たく、かつすべり止めのギザギザなどつけてくれて、ゴム素材ならなお良しなのですが、つるっとしたいくぶん丸みのある金属の背となっています。角度を決めても、木軸に刃が入ったところから芯先へ到達するまでに、微妙に狙いがずれてしまいます。そこで、前述の通り三角クリップをかませて親指の引っかかりを作っているのでした。

一方カッターナイフは、刃の根元のホルダー先端を背に見立てて親指を当てれば、かなり安定します。しかし、押し込むと刃が微妙に傾いて柄の中で動きます。これは、刃が丸い穴ひとつで柄に収納されているためで、刃を出すのがスライド式だからかな? と思って刃を固定するネジ式にしてみても、やはり動きます。そのあたりはカッターの本来の使い方──先端を一点置き、引いて切る──のために作られているので致し方ありません。微妙に動くことも想定して削り進めることになります。

そして肥後守は、写真のようにぶ厚い刃で、親指を安定させる背として申し分ありません。断面が角ばってザラついているのも好都合です。

背をしっかりホールドするために、親指のほうへ釣鐘型の指サックをはめるという方法もありますが、指の感触が鈍ってコントロールがつけづらくなったり、力を入れすぎてしまったりするので、結局は素手がベストなようです。

いざ、精神統一

日々文字を書いていて「今日は気分が乗っているな!」という感触を得られたり、「うわっ何を書いても駄目だこれは…」という形になってしまったりするものですが、鉛筆のナイフ手削りもそれに似ています。それゆえに、自分のその時の心の状態がよくわかります。

また、ひとしきり削ることに没頭したあとには心が整うようで、文字を書くことに集中できます。

なんといっても、削りたての鉛筆で文章を書くことは最高に気持ちいいものです。

鉛筆をナイフで削る

d20170731-01_2

こちらはカッターナイフで削りました。使ったものはNTカッター A-300GR。金属ボディの柄が握り心地抜群です。前述の通り刃が柄の中で多少ぐらついてしまうので、少々迷いのある削り口になっています。

d20170731-01_3

こちらは肥後守で削ったものです。そろそろ刃を研がなければ…という頃でした。使ったものは「カネコマ印」で知られる永井駒製作所の製品を、京都の菊一文字が調整した肥後守です。

この刃の反りが背に親指を当てやすく、木軸も脇へ流れていきづらいため、安心して削り進められます。見かけはいかついけれども、包容力があって優しい刃! という印象です。

御覧になって、「鉛筆を手で削りたい」と感じられたでしょうか。

ちょっと手間がかかるし、他に便利な道具もあるのだけれど、書いていて楽しそうだし、自分好みの感触も得られる。──まるで、万年筆に共通する感覚です。

そのひと手間が、心に彩りを加えてくれる。それは文具好き全般にも共通する感覚なのだと思います。

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小日向 京(こひなた きょう)

小日向 京(こひなた きょう)

「趣味の文具箱」ライター。日常生活における手書きと文具の有効活用を日々研究し続けている。著書「考える鉛筆」(アスペクト)。

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