悦に浸れる度数「ドンデン指数」をまじめに考えてみた
いい言葉が見つからない。
あえていうなら、本末転倒。
でもこの言葉はあまりいい意味では使われない。
もっと、気分が盛り上がる、幸せな気持ちになる言葉が欲しい…
我々、筆欲異常者にとって、書きたいというヒト的な欲求を上げてくれる道具は、だいたいにおいて本末転倒な要素を含んでいるのではいだろうか。
例えば万年筆の本数。心地よく書きたいから、自分の手に合ったペンを探し、買い求める。これを続けていくとペンはどんどん増えていって、ペン1本が使われる回数や時間は減り、インクを入れ替えたり、ペン先や首軸を洗ったり、ペンケースを探しに旅に出たり…と気が付くとあんまり書いていない。
文具仲間と酒場でペンを目の前に転がして呑みながら、夜中までおしゃべりしていたりもする。書く時間よりも、書くを中心にしたその回りを囲んでいる物事、つまり書かない時間がどんどん増えていく。この本末転倒な状態は、実はかなり幸せな時間でもある。
2016年、アシュフォードの30周年記念モデルとしてA7ノートカバー「リアン」を発案し、商品化してもらった。使ったレザーは手染めで美しい濃淡があるグリーンの本革。カバーに差し込むのはキャンパスノートのA7サイズを想定した。このノートは1冊約80円。対するリアンは本体6500円。主役のノートに対してカバーは約80倍。“本末”がどんでん返しとなっている。「本」と「末」の逆転している倍数を、ここでは「ドンデン指数」と名付けてみる(もっといい言葉がありそうだが…)。
このドンデン指数が激しい趣味の文具箱の新しいオリジナル商品をここでは2つご紹介。
ひとつは「ブルーコードバン ペンシルキャップ」。
世間一般的に、鉛筆という存在は小学校の卒業式と同時に皆さんサヨナラしているようだ。
しかし、この筆記具は無限の可能性を秘めている。なぜなら…、と語り始めると長くなるので、「趣味の文具箱」そして「ステーショナリーマガジン」のバックナンバーを見てもらうことにして、結論から端折って言うと鉛筆という道具はデジタルな道具(スマホとかPCとか)を使わざるをえない現在の状況においてとても機能を発揮するペンなのだ。
大人こそペンケースに入れて活用すべきペンだと思う。でもボールペンやマーカーとペンケースに同居させるにはキャップが必要。そして、日々使い続けるなら、素材は熟成する良質なレザーがいい。というわけで、大人気のブルーコードバンでアシュフォードにオリジナルモデルを作っていただいた。ドンデン指数は約「10」。
名刺や財布など、中味を入れて膨らみ、そこがいろいろなところに当たって独特の艶を増していくことがある。これを「(革に)当たりが出てくる」なんて表現するが、このペンシルキャップは鉛筆の六角形の角から当たりが出て、シェルコードバンならではの艶がどんどん増してくる。これは、眺めているだけで悦に浸れる。
もうひとつは「ブルーコードバン システム手帳M6」。
ホーウィーン社のシェルコードバンは、使い込むほどにとにかく“熟成”が進む。艶、そして色の深みがどんどん増していく。だから、いつでも、どこでも身につけて使う道具であるほどこの素材が生きてくる。
システム手帳のM6(ミニ6)サイズは「ポケットサイズ」などと呼ばれることも多い。適度な筆記面積があり、かつポケットなどで携帯するにはちょうどいい大きさだ。ダイアリーやメモリフィルなどの種類も豊富に揃っている。
片手にちょうど収まるこの大きさは、いつでもどこでもお供にできるコンパクトさで、シェルコードバン独特の手に吸い付くような感触を日々体感できる。
ドンデン指数は、使うリフィルにもよるが一般のノートリフィルで換算すると「100オーバー!」。
ぜひ本末転倒に潜む、隠微で濃厚なシアワセを皆さん、体感してみてください。
この記事は2017年6月9日に配信されたメールマガジンの内容を一部を転載して構成されています。各種情報は変更されている場合があります。
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清水 茂樹(しみず しげき)
1965年、福島県会津若松市生まれ。2004年より文具情報誌「趣味の文具箱」編集長。「ステーショナリーマガジン」「ノート&ダイアリースタイルブック」も手掛ける。ソリッドな黒軸、ネイビーブルー色のインク、風合いが育つ革、手のひらサイズが大好き。