「筆欲」が止まらない!
「筆欲」という言葉は、趣味の文具箱35号の表紙で初めて使った言葉です。
辞書にはのっていません。もし仮に辞書にのっていたら「書きたい欲。人間だけにある知的な欲心」など書かれているかもしれません。
なんでもいいから、書いていたい。書き続けて気持ちよくなっていたい…。ああ筆欲が止まらない! この気持ちは筆記具好きの皆さんであれば共感してもらえるはず。そして、自分もかなりの異常筆欲者だと自覚しています。
「筆欲」は、趣味文CLUBのコラム「小日向日記」でも、小日向 京さんがよく使われています。今回は、個人的な見解を元に筆欲を語ってみたいと思います。肩の力を抜いて読んでみてください。
「書く」には3つの目的があると思っています。
1つめは「自分に伝えるために書く」。
アポイントを記入した手帳や、仕事(TO DO)リスト、日記などがこれにあたります。今の自分からちょっとだけ未来の自分に伝える内容で、PCやスマホが仕事道具としても普及し、手書きする人は減りつつあるようです。
2つめは「自分以外の誰かに伝えるため書く」。
手紙とかメモとか駅の伝言板(かなり減りました)などが代表的です。こちらも、スマホなどの普及で世の中一般的にはこの目的のために書かれることは激減しています。
3つめは「伝える相手が誰もいない、つまり目的のない書く」。
書道やカリグラフィーなど「アートな書くこと」が一部含まれるかもしれません。書くこと自体が目的なので、スマホやPCのキーボードで置き換えることは不可能な領域です。
筆欲は、この第3系統の筆記神経の延長に潜んでいるのではと考えています。
小さな子どもに紙とクレヨンを渡すと、夢中でラクガキを始めますよね。
大人でも、頭の中がもやもやしているときに、大きな白い紙を前に、思いつくままにラクガキするように書き出してみると、解決のための近道が見つかったりすることがあります。
筆欲とは、ヒトだけに与えられた知的で楽しい欲求です。
華麗な軸のペンを選び、インクの色を選び、紙を選び、条件を変えることで、その時々の筆欲を満たしていく。筆欲は繊細でわがまま。だから、ペンもインクも1本だけあれば十分ということはないのです。
様々な筆記具を紹介し続ける「趣味の文具箱」にとって、筆欲とは宿命的な性でもあるのです。
この記事は2017年3月10日に配信されたメールマガジンの内容を一部を転載して構成されています。各種情報は変更されている場合があります。
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清水 茂樹(しみず しげき)
1965年、福島県会津若松市生まれ。2004年より文具情報誌「趣味の文具箱」編集長。「ステーショナリーマガジン」「ノート&ダイアリースタイルブック」も手掛ける。ソリッドな黒軸、ネイビーブルー色のインク、風合いが育つ革、手のひらサイズが大好き。