筆記用紙「バンクペーパー」の魅力
つまみ食い、って楽しいですよね。
気になるものを、ずらーっと並べてちょこちょこっと味わう。
趣味の文具箱編集部では、万年筆やインクや紙のつまみ喰いならぬ“つまみ書き”をよく楽しんでいます。新しい製品が登場するとライバルになると思われるものを横にたくさん並べて書き心地の違いを五感でたしかめるのです。
ある日、最新の高級ノート約30冊を一堂に集めて、つまみ書きしてみることにしました。そして目の前にはペンを並べます。万年筆、鉛筆、シャープペンシル、ローラーボール(水性ボールペン)、そして色鉛筆。いろいろなペンと紙を組み合わせて試し書きをしてみました。
いまさらですが、万年筆が大好きです。だから、万年筆での書き味を徹底して紙には求めたい。しかし、万年筆に相性のいい紙選びはとても難しい。
万年筆のペン先は、まったく同じモデルの同じ太さの2本があっても、その書き味が同じことはありません。また同じ1本の万年筆があっても、それに入れるインクを変えると、書き味は微妙に変わります。インクの違いでそんなに変わるはずが…と思われるかもしれません。でも、実際に比べてみると誰でも感じられるような書き味の違いが万年筆にはあるのです。
均一な品質が大量生産される時代にあっても、万年筆のこの性質はこれからも変わりません。製品のばらつきではなく、個性。これが万年筆の大きな魅力です。世がデジタルに進むほどに、この万年筆の魅力はこれからもどんどん大きくなっていくことでしょう。
万年筆にはこんな奥深さがあるので、どんなに多くの種類の万年筆を準備して試してみても「これが、万年筆にとって最高の紙」なんて答えはなかなか出てきません。そもそも書くときの「味」なので、使う人の好みが大前提にあり、善し悪しの基準がないのです。
紙の仕様にはJISで定めた、白色度(%)、平滑度(単位=秒/空気が抜けきる時間で表す)、サイズ度(秒/水の浸透する時間=にじみの度合い)、密度(g/立方cm)などがあります。紙の特性を知るための貴重な情報です。でも、目の前に並んだ紙のこれらの仕様がわかっていたとしても、書き味の参考にはあまりなりません。
できるだけ多くの万年筆とインクを使ってみて、さらにほかの種類のペンも加えて、自分がもっとも心地良く感じる、さらにめくったり、綴じたり、つまんだりして、風合いが感じられる紙はどんなものなのか、を確かめてみようと思いました。
書くために作られた紙は、当然ながら、書きやすい。
いろいろと試してみた結果、自分がとても気持ちよく書けるのは「バンクペーパー」であるという結論に。
バンクペーパーは、三菱製紙が1960年に銀行の帳簿用紙として開発した筆記用の上質紙。万年筆、ボールペン、鉛筆などに対する筆記特性が良く、バインダーなどに綴じたときに破れにくいように引き裂き強度と耐摩耗性、剛度(紙の腰)を重視して作られています。書きやすいのは当然。指ではさんだり、弾いたりしたときのピンとした独特の張り具合にも理由があったのです。
以前から、便箋などでその書き味の良さは体感していたものの、バンクペーパーに関する情報はあまりにも少ないものでした。もっと、この紙について知りたい。さっそく三菱製紙にお願いして、バンクペーパーが作られている姫路の工場見学にまで行ってきました。
巨大な製紙工場の現場でわかったことは、バンクペーパーは職人的な経験と技で、丁寧に作られているということ。2種類のパルプを独自の配合でブレンドして、叩解(こうかい)と呼ばれるパルプの加工も独自の方法と時間をかけて行っています。
30種類の紙を並べてつまみ書きしてみると、似た書き味の紙はあっても、まったく同じ感触の紙はありません。中でもバンクペーパーの書き味の個性はとても独特です。つるつるしすぎないのに、万年筆では極細でもすいすい滑るように書ける。鉛筆やシャープペンシルでは芯の乗り具合が絶妙。
自分はトレーシングペーパーに鉛筆で書く感触(紙面上で芯を削りながら濃厚に書く感触)が大好きなのですが、バンクペーパーではこの感覚も味わえます(工場見学に行ってわかったことですが、バンクペーパーを抄造しているマシンでは三菱製紙のトレーシングペーパーも作っていました)。
バンクペーパーは手間をかけ、かつ少ないロットで作っているのでどうしても単価が高くなってしまいます。封筒や便箋などでは使われているものの本格的なノートではありません。
であれば、ということでバンクペーパーを使ったノート「SOLA」シリーズを2012年からスタートしました。万年筆やインク、そして用紙の組み合わせで、書き心地は無限に広がっていきます。バンクペーパーの独特の書き味もぜひ「SOLA」で体感してみてください。
>EIステーショナリーSOLAシリーズ ノート N007 方眼ノート(趣味の文具箱ロゴ入り)
※限定商品のため在庫限りの販売となります
※現在、再生産の予定はございません
この記事は2017年1月20日に配信されたメールマガジンの内容を一部を転載して構成されています。各種情報は変更されている場合があります。
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清水 茂樹(しみず しげき)
1965年、福島県会津若松市生まれ。2004年より文具情報誌「趣味の文具箱」編集長。「ステーショナリーマガジン」「ノート&ダイアリースタイルブック」も手掛ける。ソリッドな黒軸、ネイビーブルー色のインク、風合いが育つ革、手のひらサイズが大好き。