小日向日記│「旅は文具を連れて」取材時のメモ
上は『趣味の文具箱 vol.41』の「旅は文具を連れて」p.20のラフです。この時点ですでに取材写真は撮ってあり、文字原稿とデザインはこれから、という状態のものです。
取材のあとにこちらが原稿を書く前、編集者は上のようなラフを作成し渡してくれます。ここであらかたの文字数が明らかになり、その後のデザインで微妙な文字数の変動はあるものの、このラフでの文字数に合わせて原稿を用意することになります。
取材から原稿アップまでのスケジュール次第ではデザインと原稿書きが同時進行になることもありますが、「旅は文具を連れて」ではたいてい、取材撮影→ラフ完成→まず写真キャプション原稿を書く→レイアウト入稿→本文原稿を書く→全体の原稿を整えて完成させる、という手順で進行しています。
今回はそのラフの前後に重要となる、取材メモの話について書きましょう。
何を書かないか
とにかくメモを残しておかないことにはその先が立ちゆかない、という場面は仕事や生活の中でいくつもあるものですが、すべてのメモは書くその時が肝心です。どのようなことを書いて、どのようなことを書かないか。このうち特に何を「書かないか」が大切です。
もしも手の動きが超速で、聞き取ったことや目にしたことをすべて書き取ることができたとしても、そのメモは果たしてあとあと役に立つものかどうか。要点と、スルーして良いものとの区別がつかず、大事なことが埋没してしまう危険性をはらんでいます。
そこでメモをする時から、その選別作業も同時に行うようにします。せっかく生身の人々や、実際の風景を目の当たりにしながらメモするのだから、その時の空気感を探るべきで、そのために「書かない」という選択肢が活きてくることがあります。
書かないことは、時に人から他愛のない話を引き出すためにも有効です。
取材時に話を訊いていると、相手も「質問に答えるんだ」という気持ちで応えていただくため、聞いたことをそのままメモする姿を見せると時に緊張感が生まれます。そこで、自然な対話となるよう自らもクールダウンさせる目的で、メモを取る手を休めます。
そんな時に書いておきたいことがあったら、時間差メモすることもあります。今回の星野リゾート 界 出雲を訪れた「旅は文具を連れて」p.20本文の書き出しは、こうです。
『出雲では、にわか雨がよく降るという。「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉があると聞き、なるほど出雲の名は雲の動きが頻繁な土地柄からなのだろうかとメモに覚え書きを残す。』
これは宿での取材撮影を終えて発つ時に、界 出雲のスタッフのかたから「これから行かれるのは松江ですか、出雲大社ですか?」との言葉を受けて、両方行くのですと答えながら空を見上げ、いくぶん雲が出ているようですねと言ったところ「出雲にはこのような言葉があるんですよ」と、にわか雨が多いことを教えていただいたものでした。
本文ではすぐ「メモに覚え書きを残」したかのように書いていますが、実際その時には荷物を手にしており、(わーっなになに、耳寄り情報到来! このお話、絶対に本文に書きたい!)と思い、メモするのはあとになろうから「弁当忘れても傘忘れるな」の言いまわしをきっちり脳内記憶せねば…とつとめ、移動車内ですかさず書き記したものです。このような突発メモのためにも、紙と筆記具はすぐに出せるところに控えておくことが得策です。
全体像と細部がわかるメモにしたい
出雲で主にメモを書いたのは、上の写真のクリップボードと書類用紙でした。
「えっ、なんかずいぶんごちゃまぜになってない? そして乱雑じゃない?」と思われることでしょう。持ちものリストみたいなのもあるし…。今回も滞在中の撮影スケジュールをあらかじめ担当編集から渡され、いっときも気を抜けない様相のため、その行程表を見ながらの取材撮影に。これが終わったら次はあの文具アイテムでこれをする、と随時確認しながらの取材では、その書類に余白がある限りはメモもそこへ書くのが一番です。現地に行ってあれなかった! では大変ですから、もう常にこの書類参照が頼みの綱。そのために、持ちもの準備の時から後生大事にクリップボードに挟んで書き記しました。
冒頭に挙げたラフを目にした時、このメモに立ち返って「出雲という風土、界 出雲での文具使い、文具が映える宿の滞在時間」の全体像が見え、また文章にするさいの語句が細かいところまで書かれている状態がベストです。資料は固有名詞を確認するための良い助けとなります。良いメモの時には、そこに書かれた文字がひゅんひゅん! とラフの所定の場所へ飛んでいくような感覚がします。
「このメモはここに飛んでいった」「この要素も書いておこう」と、ラフにキーワードを記します。
書いたメモを読み返した時に、「…で結局この話の主旨って何だったっけ」ということや、「ここで聞いたこの話、言ってる内容はわかるんだけど述語は何て表現していたっけ」ということが多々あるものです。そうした、全体像も細部も書いていないメモは大変やっかいです。色々な反省を経て、自分は「全体像でも細部でもない情報は書かない」ことにしています。
メモは「ここに書いておいたから、読み返すまでは忘れていても大丈夫だよ」という目的のもと記すのと同時に、「読み返した時、その時の空気感までをも思い出す」ものでありたいです。そのための装置として機能させるべく、今後も書きかたを模索したいと思います。
もちろんこの時には、ここぞとばかりにお気に入りの文具を駆使したいものですよね。それが良し。文具の力も、ガンガン借りることにいたしましょう!